< ごはんつぶ >
毎日3食お世話になっている“ごはん”。幼少時、茶碗の所々に
残る“ごはんつぶ”を祖父が見て「一粒も残さず食べなさい。お百
姓さんたちが一生懸命に作ってくれたんだから」とよく言われた。
つぶ(粒)の集合体はパン以上に腹を満たしてくれる。その“ごは
んつぶ”が意外な所で活躍していた。“のり”だ。食べるのではなく
つけるのり。“ごはんつぶ”は指先につくとベトベトする。炊き立
てならなおさらだ。
母は封書を出してきた。誰かに送るようだ。宛名を書いて封を
する。“のり”を使って、いや“ごはんつぶ”を使って粒を引きつぶし
ながら伸ばしてつけて封を閉じた。「ポストに入れてきて」と言
われ、僕は、内心こんなんでいいんだ!と思った。しかも食べ物
を使うとは。
親指と人差し指で少し乾いた“ごはんつぶ”をこねくり回してい
たら、しだいに灰色になる。このこねくり感が柔らかくて好きだ。
だが、その姿を母に見られ「何をやっているの?食べ物でそうい
うことしないの!」と言われてしょげた。でも“のり”と一緒でしょ
と思ったが、口には出さなかった。